最高裁判所第一小法廷 昭和25(あ)812 決定
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に通算する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理 由
弁護人日比野幸一上告趣意第一点及び第二点について。
被告人が他数名と共謀の上偽造小切手を行使したとなす所論第一審判決の事実認
定は、その挙示する証拠に照らしこれを肯認するに難くないのであり、この事実認
定を是認した原判決にも所論のような違法はない。論旨は唯「原判決ハ誤判ノ憲法
違反ノ誹ヲ免カレナイ」と主張するだけで、いずれもその実質は、事実審がその裁
量権の範囲内で適法になした事実認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならな
い。
同第三点について。
記録を精査しても所論証人Aの証言が任意になされたものでないことを認むべき
何等の証跡もない。また、その証言内容が、同人に対する別件の嫌疑により勾留中
偶々本件事実につき同房の被告人から聞知したに過ぎないものであるからとて、こ
の一事によりその証言の信憑力を皆無と即断することはできない。所論違憲の主張
はその前提を欠き、畢竟事実審の裁量に属する証拠の取捨判断乃至事実の認定を非
難するに帰着し、上告適法の理由とならない。
被告人本人の上告趣意について。
まず趣意書(一)の(イ)所論につき按ずるに、原判決が弁護人植田広の控訴趣
意についてのみ判断をなし、被告人提出の控訴趣意に対しては別段判示するところ
なかつたことは、論旨の指摘する通りである。被告人の控訴趣意書は被告人のこれ
に基ずく陳述の有無に拘わらず当然控訴審における訴訟資料となるのであるから、
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苟くも被告人においてこれを撤回しない限り、控訴審はその趣意書に対して判断を
下さねばならないこと勿論である。しかし、本件において所論被告人の控訴趣意の
内容は要するに第一審が被告人の弁解を容れず判示事実を認定したことを非難する
ものであり、弁護人植田広の控訴趣意書に内含されていることが明らかである。そ
れ故原判決が右弁護人の趣意書を添付し、これについて理由なき旨の判断を下して
いる以上、形式的に被告人の趣意書の添付を欠いているとしても実質的には被告人
の控訴趣意に対してもまた同様の判断がなされているものといゝ得ないわけではな
い。従つて原判決の形式的瑕疵は実質的判断の結論に影響するところはなく、原判
決を破棄する理由となすに足りない。その他の上告趣意の中(一)の(ロ)(ハ)
(ニ)(二)(三)(三は前後二箇所に重複しあるも、その双方とも)(四)(五)
等の所論は、第一審判決及び原判決の引用する各証人の証言に関する公判調書の記
載が、実際の供述内容と相違し虚偽であること、右証人の証言はいずれも信用し得
ないものであること、他に有力な反証あるに拘らず採用されなかつたこと、被告人
等が真実不法所持物資の摘発を目的としていたか否かにつき審理されなかつたこと
等を云存して、事実審の裁量権に属する証拠調の限度又は証拠の取捨判断を争い、
結局事実誤認を非難するに帰着し、上告適法の理由とならない。次に(弐)(二も
前後に重複している)の(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の論旨は所論の各機会に被告人
をして反対尋問及び陳述をなす等、いわゆる防禦権を行使せしめなかつたと主張す
るのであるが、各公判調書の記載によれば、これを認むべき証跡はない。また同(
へ)の所論上申書は単に第一審第三回公判の最終陳述の際、これが提出を予告し、
判決言渡当日裁判官に通読を求めたに過ぎないものであり、第一審がこれに対し判
示するところなかつたのは当然である。そして原審においても、この点に関しては
何等の主張もなされなかつたのであり、従つてまた何等の判断も示されなかつたと
ころなのである。その他(貳)の(イ)(ヌ)(ル)の所論は実質上単なる訴訟法
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違反の主張であり、同(ト)(チ)(リ)(ヲ)及び(六)の所論は原判決の当否
に影響なき事項を主張するものたるに過ぎない。これを要するに、所論は名を憲法
違反に藉口して、或は存在するとは認められない事実を前提として立論し、或は原
判決の当否とは無関係な事項を主張し、或は単なる訴訟法違反を主張するものでな
ければ結局事実審の裁量権に属する事実認定を非難するに帰着し、すべて刑訴四〇
五条所定の上告適法の理由とならない。しかも本件は同四一一条により職権を発動
すべき場合とも認められない。
よつて刑訴四一四条三八六条一項三号一八一条一項刑法二一条に従い主文の通り
決定する。
この決定は裁判官全員の一致した意見である。
昭和二五年一一月一六日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 澤 田 竹 治 郎
裁判官 齋 藤 悠 輔
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